だってキミが好きだった









きっと千歳さんは一番、今から話すことが言いたかったんだろう。




目や雰囲気。


全てが真剣だ。




――ドクン、ドクン。




心臓が、うるさい。










「なぁ菫。……千早の記憶、思い出させてやらねぇか?」










……―え?




千歳さんの言った言葉に、耳を疑う。





「な、に言って……」





気付けばそんな言葉を発していた。




どうして?

彼の記憶を思い出させる?

彼が過去を思い出すってこと?

どうして、ねぇどうしてですか?






ガタッ。





そう思えば、無意識に椅子から立ち上がっていた。



勢いよく立ったからか、椅子が床に叩きつけられる。




普通なら少しぐらい驚くところだろう。







だけど千歳さんは、少しも驚いてなんかいない。







ただ真っ直ぐに私の目を見て、

“本気”だと訴えてくる。





な、んで…。



どうして?何で?





「何で、ですか?」





おかしい。



前の千歳さんなら“思い出させよう”なんてそんなこと、言わなかった筈だ。




千歳さんは何よりも家族思いだから。






それなのに、なんでなんだ。










記憶を思いだすことは、



彼にとって“苦”でしかないじゃないか。









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