不思議電波塔



 由貴は涼を見つめると「キスして」と言った。

 涼が由貴にキスをすると、由貴は涼に腕を絡めてきた。

「会長?」

「──」

 引き寄せる腕の力に、由貴の上に覆い被さるように涼は倒れ込んで、しばらくふたりはそのままでいた。

 由貴は抱きしめたまま何も言わない。

 やがて涼が小動物のようにもそもそと動く。

 由貴が笑った。

「涼、可愛い」

「会長意味わかんない。涼、こんなことされたら動けないよ」

「涼抱いていると安心するんだよ。何でだろう」

 由貴は身を起こして、涼を抱きしめたまま座った。

 涼の手にノートとシャーペンがあるのに気づく。

「あれ?ノートとシャーペン何処から?」

「ノートは忍ちゃんから。シャーペンは四季くんから。会長、体調がわるそうだったから、涼が代わりに会長の思ったこと書いてあげようと思って」

「そう」

 由貴は涼を大事にしてくれる。

 キスから先にまだなったことがないくらいには。

「会長、涼のこと抱きたい?」

 由貴の温もりは涼にも安心出来るものだ。

 ただ、涼はそのあたりが「少女」で、キス以上の関係になりたいと思ったことがない。

 由貴の方はそうではなかったから、一時期それで悩んだこともある。

 ただ涼が由貴に向けてくる感情は好き以外の何者でもなくて、由貴が涼に傾ける愛情も結局変わらなかったため、関係は壊れなかったのだ。

「うん。──大人になったらね」

 由貴はそういう言い方をした。

 何処か遠い響きに、涼は由貴が離れていってしまうような不安感を覚えて、振り返る。

「大人ってどういうこと?」



< 111 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop