不思議電波塔
「いいえ。知るはずありません。本当のことを彼女が話すはずありません」
「しかし、私は声を聞いた。あなたか彼か、どちらかがそう想ってでもいない限り、このような声を精霊がいたずらに運んでくるものとは思えない」
「……。あの方は私をまだ大事に想ってくださっているのですね」
女性は穏やかにそう言った。
「服は私がお直ししましょう。あの方が幸せであるように。ただ、私には今、大切なものがあります。想い出は想い出として、これからを大切にしてほしいと、あの方にお伝えくださいませんか?」
お金は要らないと女性は言った。この服をつくった時も依頼を受けてつくりはじめたわけではないからと。
セラミスはそれでは申し訳ないと言ったが、女性はセラミスに『ここまで足を運んでくれた苦労をされたのはあなたですから』と堅く言って断った。
数日後、セラミスは縫い上がった服を、男性に手渡した。
「ご満足いただけるものになっていると思います」
男性はその服を見てまばたきした。
「失礼ですが、これは本当にあなたが仕事をされたのですか?」
彼女でなければできない繕いがなされていたのである。
「いいえ。私が服を直そうとすると声が聞こえてくるので、私は直せなかったのです。服を直してくれたのはある女性の方です。『想い出は想い出として、これからを大切にしてほしい』と」
「──」
それまでにあった想いが一瞬にして胸中を駆け巡っていったのか、男性は服を受け取ると、丁重に「ありがとうございます」と言った。
男性は女性のことを何も聞かなかった。
そこにある綺麗に直された服と、目の前にはいない彼女が、すべてを物語っていた。