不思議電波塔



 セラミスは多くの服を縫い、時を重ねてゆくうちに、やがて人や時の綻びを繕っているような気持ちになってきた。

 また、実際そうであった。

 誰も繕えずに放り出された服の山に遭遇し、使えるものと使えないものにふるいわけ、ひとりで黙々と作業をしていた時もある。

 しかし、服の奪いあいや、誰がこの面倒で膨大な作業をするかということで、足の引っ張り合いや仕事の押しつけ合いを目の当たりにした時は、セラミスは思ったのだった。

 このようなことに心を騒がせているよりは、ひとりで仕事をこなしている方がよい、と。

 気がついた時には、セラミスはその腕は世から必要とされるようになったものの、セラミス自身は世からは必要とされなくなっていた。

 それでもセラミスは思った。

 私はこの仕事のために生まれてきたのだと。





 ある時セラミスは、上質の芭蕉布がとれるという地を訪れる。

 それがネムフェリウという地であった。

 アレクメスという国は広大だ。アレクメスの生まれ育ちでありながら、まるで南国の地を訪れたかのような風景に、セラミスの心は惹きつけられた。

 ネムフェリウからは『青龍の目』と呼ばれるネムフェルン島がよく見えた。

 人のために服を縫い続けてきたセラミスを、『青龍の目』は呼んだ。

 誰にも必要とされないのか。

 しかしお前の心は傷みこそすれ、その都度きれいに繕われ、天命をまっとうする姿勢が見える。

 ここに来て仕事をするがいい。人の世は忙しない。

 セラミスはたったひとりその島に移り住み服をつくりつづけた。

 その服は人に愛されたが、つくる者の名が世に広く知れ渡ることはなかった。



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