不思議電波塔



 その日は一日歩いて、夕刻頃、ユニスはユリエに何処か休める場所はないかと訊いた。

 ユリエは姿をとらぬまま、ユニスに話しかける。

『私が宿をお取りしましょうか?』

 ユニスは首を振る。

「いいえ。人の気配がない場所がいいのです」

『外でお休みになられるおつもりですか?できることはできますが』

 人がいるところは怖いのだとユニスは言った。

 大勢の人々が一瞬にしてパニックになってしまうことにかなりショックが残っているらしい。

 元々自然界になじみやすく、草の上に横になって眠ることに抵抗はない主人である。

 ケファウルの地も同じ冬という季節でもリオピアの王都よりは温暖で、一晩くらいは何とかなるかもしれない。

 しかし、首都ハリスモンドに向かうほど寒くなってゆくだろう。この先もこのまま行くつもりだろうか?

『マスター』

 ユリエは優しく呼びかけた。ユリエはユニスを呼ぶ時『マスター』と呼ぶ。『ご主人様』という意味である。

『マスターはお身体をゆっくり休める必要があります。今晩は私にお任せください。出来るだけ静かに休めるような宿をお取りしましょう。お休みになりたければ私が眠れるよう力を行使すればよいことです』

「……」

 ユニスは俯いてしまった。

 そういうことではないのだ。人がいるところにいるのが、あの時と同じ状況になってしまうことが、恐ろしいのである。

 ユリエにもユニスの心境がわからぬわけではない。

 だが気力だけでここまでたどり着いているような主人の姿を見ると、倒れてしまうのではないかと気が気ではなかった。

 その時である。

「あの…。すみません」

 腕に小さな子を抱いたひとりの若い女性がユニスに話しかけてきた。

「この近くで男の人を見かけなかった?象牙色の短い髪に、黒のマントを羽織った──」



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