不思議電波塔
ユニスは「いいえ」と答えた。
「そう。ありがとう」
女性はにっこり笑った。
ユニスは心を何処かへ忘れてきてしまったような感情のない表情に、かすかに微笑みを浮かべただけだった。
そこで女性は初めてその子に違和感を感じる。
とりたてて派手なわけではないが品の良い服を着たその子供は、アレクメスではほとんど見かけない淡く美しい金髪だった。肌は白い。
周りにその子の連れらしい者はいない。
女性は思わずその子に訊いてしまった。
「あの…。大丈夫?」
「……」
ユニスは怪訝そうに女性を見上げた。真っ直ぐに見つめられ、女性は戸惑ったように言う。
「ほら、そろそろお家に帰る時間じゃない?お友達と遊んでいたの?」
「いいえ」
「誰か待っているの?お父さんとかお母さんとか」
ユニスの立ち止まっていたところは橋の上だったこともあり、そう見えてもおかしくはなかった。
「…いいえ」
ユニスは小さく答えた。
お父さんとお母さんという単語が出てきたことに、鎮めようとしていた感情にまた波風が立ち始める。
(父上と母上は)
会いたくても、たぶんもう。
ユニスの目から涙がこぼれ落ちた。
「あ…っ。ご、ごめんなさい。え、私変なこと言った?ごめんね。ごめんなさい」
慌てて女性は謝り、かがみ込むとユニスと同じ目の高さで顔を覗き込んだ。
「ごめんね。何かあったのね」
手に抱いた子が泣きはじめた。
女性が「大丈夫、大丈夫」と言って抱きしめる。
何かに怯えているように女性にしがみつき、泣きやまない。
ユニスの方はそれで涙が止まってしまった。リュールのことを思い出していた。
リュールは大丈夫だろうか。泣いてはいないだろうか。
──ユニスの手がそっとその子に触れた。
「大丈夫」
静かに言うと、その子はぴたりと泣き止んだ。
女性は驚いてユニスを見る。
「──すごい…。どうして?」