天使の瞳
「この前来たのは緊急ですね。それから縫って…ちょっと見せて」
カルテを見ながら言う女医さんにあたしは左手を差し出す。
その手の平の血を消毒が沁み込んである綿で拭きとりながらマジマジと見た。
「んー…皮膚が弱い方なんだね」
「弱い?」
「そうそう、まれにね縫って抜糸してもね皮膚と皮膚がくっつかない人がいるの。で、これ縫ってるけどまだ完全にひっついてないからそこから血が出てくるの」
「いや、でも昨日は全然だったんですけど」
「うん、けど今開いてるからね」
「でも痛さがないんですけど?」
「痛さってこの切った手の平の痛さ?」
「はい」
「縫った時の痛さはあったでしょ?」
「まぁ多少…と言うかあまり覚えてません」
「少しくらい痛み感じてるのなら大丈夫よ。薬は全部飲んだ?」
「はい」
「じゃあ、また追加分出すから全て飲みきって下さいね」
もう一度手当をしてあたしは千穂の所へと向かう。
だけど終わった後もまだあたしは納得出来なかった。
そんな事はあるのだろうかと。
切った記憶すらなくて、痛みさえなくて、この分からない事だらけに少し不安を感じた。
「音羽、何て?」
深くソファーに背を付けていた千穂は少し身体を起しあたしを見上げる。
「うーん…皮膚が弱いって。よー分からんけど」
そう言ってあたしは千穂の隣に腰を下ろす。