天使の瞳
その日は何もする事なんか出来なかった。
出来なかったと言うかしたくもなかった。
携帯は電源を切ったまま。
電源をいれようとも思えなかった。
お母さんが仕事に出掛けた後も、ただひたすらリビングに居た。朝だと言うのに、明るいと言うのに電気を点けてテレビの音量も上げてソファーに横たわってた。
その日の昼過ぎに歩夢が帰ってきてダラダラとしているあたしを馬鹿みたいに見て来た。
そんな行動が夜まで続き、またさんざん文句を言われながら歩夢に部屋で寝た。
次の日も、その次の日も、歩夢が居ない時はお母さんの隣でねるくらいだった。
そんなある日だった。
昼の1時を過ぎた時だった。
ピンポーン、ピンポーン…と鳴り響くチャイム。
何度も何度も鳴るチャイム。そのチャイムすらうっとおしく感じた時だった。
「音羽!!」
その叫び声と同時にバンバンとドアを叩く音。
その声の主が分かったあたしは玄関に向かって歩き、未だ鳴り続けるチャイムの音に顔を顰めながらカチャン…と鍵を開けた。
鍵を開けた途端、グイッと引っ張られるように開かれたドアの所為で身体が前にのめり込む。
そしてその倒れ掛った身体がタクの身体にくっついた。
「アホか、お前!!何しとんねん!!」
タクの弾けた声が頭をガンガンと響かせる。
頭を擦りながら顔を顰めるあたしに、
「おい、音羽!!何で携帯の電源切っとんねん!!」
さらにタクの怒った声が耳を突き抜けた。