天使の瞳

「お願い、来ないで。近づかないで!!」


声を上げてあたしは持っているハサミを前に突きだす。


…殺される。


あたし、この人に殺される――…

そう思った。


多分きっと無我夢中だった。

何もその時の行動なんて考えてなかったけど、あたしは玄関に向かって走ってた。


ガタン…と音がした途端、あたしの手に痛みが走る。

暗闇で何がどうなってんのかも分かんなかったけど、あたしは玄関にある靴を履いて外に飛び出した。


降りしきる雨が想像以上に激しかった。

出た瞬間からもうベタベタで髪から流れ落ちてくる雨水が気持ち悪かった。


何度も何度も後ろを振り返って走るあたしは、もう地獄から這い上がって来た醜い人間にしか見えない。


どれくらい走ったのかも分かんなくて、暗闇のここが何処かも分かんない。

もう気力すらなくなったあたしはその場にしゃがみ込んで地面に手をつけた。


雨の音に混じって自分の泣き声が聞こえる。

目から流れてくる涙だって、雨と混じってもう何がなんだか分かんない。




だれか助けてよ、誰か、あたしを助けてよ。





お願い。お願い、お願いだから――…



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