地球の三角、宇宙の四角。
「……ごめん、私がいなくなれば

かなくんと今まで積み重ねてきた、元々いた私と今も、これからも歩んでいけるの、

今まで通りに。

それは、私ではないの。

私にはかなくんとの思い出がまったくないの。

まったくないの」

目に涙が浮かんでいる。僕の目にも。

事故みたいにして始まったものは、今、こんなにもあっけなく終わろうとしている。

「忘れたくない」と言う彼女は悔しそうな顔をして俯いた。僕もどうしょうもなくて、同じように俯いてしまう。

「綿菓子をほおばる

あなた顔も

キスの仕方も

身体の熱さも


……それも、みんな

つい、さっき

少し前に知ったばかりで

ついさっき、これからも

きっと忘れない私の記憶の宝物で。

そんな途中から急にやってきた私よりも、元々いた私の方が実際は多くて、それが、そのことが、なんだかズルくて悪くて申し訳なくて、ごめんなさい。何言ってるのかわからないよね」

と最後まで言い終わるのを待った。

彼女は完全に上書きしていると思い込んでるのか、そりゃそうだろう。

「例えそうであったとしても俺は、はゆみのことが好きだ」

それは今にもこの場所から消えてしまいそうだからなのか、僕から離れていきそうだからなのだろうか、そんな単純なものだとは思いたくない。

「最悪、はゆみがいうように、元々いたはゆみがいなくなったとしても、今こうして話してくれることを嬉しく思うし……」

何を誰と話しているのか混乱してくる。目の前のこの人はもっとだろう。

「……とにかく目の前にいるはゆみが好きだ。どこにも行って欲しくない」

本心だ。本当にそう思う。

「あの時、こんなことがあったね、あの時一緒に行った場所は綺麗だったね、また行こうね、あそこの店は美味しいね、あの時に作ってくれたおにぎりはおいしかったね、そういう話、私とは出来ないの。
それでもいいの? よくない」

興奮しているのかヒートアップするような感じの感情的な声に僕の身体の中の何かかが揺れだして止まらなくなってしまった。


「私は好きになってしまったけど、

だけど、かなくんはきっと、わたしとよく似た違う人を見ているし、それじゃぁ、かなくんがかわいそう、

元々いた私が、あまりにもかわいそう、

急に後から出て来て、そんなのは、そんなのかわいそう。

だけど、どうしたらいいの?

わたしはどうすればいいの?」

静かに怒るように感情を乗せて話をしている彼女の顔を見ているのが苦しい。

なんて言葉を返していいのかが、わからない。

どうしたら喜ばせてあげられるのか、そんな一言が見つかりそうもない。

「どうやったら、元通りになるの? 実際戻れないし、戻れないし、戻りたくもない。

このままがいい。

記憶も飛ばずにこうしていたい。このまま」

抱き合う。言葉なんか、たくさんありすぎて、どれを選んでも何をどう話しても伝わりそうもない。

頭に浮かぶ沢山の言葉はどれもなにかが違っていて、今の気持ちを正確に伝える“これだ”という言葉が見つからない。

抱きしめる強さだけが、一番近いような気がした。

< 219 / 232 >

この作品をシェア

pagetop