純粋に狂おしく愛してる ー君が私を監禁した理由(ワケ)ー
 ──春香は、優しい。そんなこと、付き合う前から分かっていた。優しすぎるんだ、春香は。

 だから、春香がその犯人に“直接、手をくださないで”と願うのなら、俺に残された選択肢は1つ。──その選択肢を、死んでも貫く。

 その犯人がまた誰かに手を出そうとするものなら、俺は……俺なりのやり方で被害を食い止めればいい。

 ……ただ、それだけだ。



 ──それから幾年の月が流れた。

 何を思ったか、その日の俺は、遠回りをして家へ帰ることにした。たぶん、気分転換だと思う。

 見慣れない建物に目をやりながら歩いていると、学生の集団に出くわした。時間的に、下校時間だろうか。

 楽しげに会話をしながら歩く学生を横目に、俺は何人もの学生たちと擦れ違う。

 ──そして俺は、嬉しそうに笑う友達と一緒にいる彼女を見付けた。

 緩やかなウェーブをえがいたサラサラとした茶色い髪。キラキラと光る黒い瞳。小柄な身長。整った顔立ち。

 嬉しそうに笑うその顔立ちや雰囲気は、とても春香に似ていた。


「はるっ……」


 思わず口から飛び出そうになる名前を、寸前で飲み込む。
< 163 / 349 >

この作品をシェア

pagetop