ONLOOKER Ⅳ



「はい?」

振り返った真琴の目付きが、普段よりも幾分冷めている。
まるで直姫のようだと、居吹は思った。
そして、無表情のまま、口を開く。

「ほんとに死んでるみたいですね、その血糊。さっきの紅先輩とのシーンなんか、ヤクザ映画観てるみたいでしたよ」
「は……?」
「ド変態教師役がこんなにリアリティなくハマる人も他にいないんじゃないですかね」
「ま……真琴……?」

言い捨てて立ち去った真琴を、口を開けたまま見送る居吹。
どうしちゃったのあの子、とでも言いたげな表情の不良教師の元へ、直姫が走り寄って来た。
手には黒髪のかつらを持っている。

「駄目ですよ先生、今の真琴は完全マサトモードだから。迂闊に話しかけるとバッサリ返り討ちに遭います」
「あいつ、仕事中はキャラまで変わるって……マジだったのか」
「真面目だからねぇ、真琴は。中途半端が出来ない人なんだよ」
「撮影終わった途端に普段通りっスからね……実は切り替えの早さなら夏生と対張るかも」

癒し系侮れねぇ、と呟く居吹たちに、休憩終了の声がかかる。
居吹は先ほどと同じ床の上、恋宵は部屋の入り口にスタンバイ。
聖は一階東側の渡り廊下前、他の五人は階段の踊り場にいて、恋宵の悲鳴が聞こえたら走ってくることになっている。

「じゃ、はじめますよー! ゴ、ヨン、……」

いつもと違う部屋、いつもと違う髪型、いつもと違う話し方。
そんな場面からはじまる、生徒会の夏である。


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