ONLOOKER Ⅳ

CHAPTER:Ⅴ



なんの反応もできなかった。
シュンが開き直って逆上した時より、ユカリが泣きそうな顔で自分の罪を打ち明けた時より。
もしかしたら、竹田の死体を見つけた時ですら、こんなには戸惑わなかったかもしれない。

「ナオ……なに言ってんの」
「本当なんです、僕が殴ったんです! ……僕、先生に、襲われそうになって……!」

ナオのその言葉に、ヨリコは息を呑んだ。
正直に言って、竹田樹に関しては、ある程度予想もしていた言葉だったのだ。
生徒を“そういう目”で見ているという噂は、前々からあった。
ヨリコの肩が大きく揺れたのは、そういうことなのだろう。
容姿の整った女子生徒ならば大抵、彼から多少なりともそういう誘いを受けたことがある、というのは、ある意味公然の事実とさえ言えた。
噂の域を出ていると言い切れず、証拠が残るようなこともしないために、他の教師の耳には入らなかったが。

しかし意外すぎたのは、それがナオの口から出た、という事実だ。
なにしろ西寺ナオは、男子生徒なのだ。



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