HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
「ずいぶん歩くの早いね」

 背後から声を掛けると、舞は肩をビクッとさせて振り返り、まだ苦しそうな呼吸の間に「まぁ」と答えた。

 本当は途中走ったくせに、と思いながら笑いを懸命にこらえる。

 ――それって恥ずかしいから? 変な気を回して?

 相変わらずポーカーフェイスの舞だが、舞は舞なりにいろいろ考えてるんだろうなと思うとますます愛しさがこみ上げてきた。

「そんなに早く図書館に行きたい?」

 でも、ついからかいたくなるんだよね。

「は!?」

 だって、楽しいから。  

「じゃ、後ろに乗って」

「だ、だめ! 二人乗りは違反だもん」

 ――確かに……。

 いやいや、俺がそれで納得して引き下がるわけがない。クスッと笑いながら挑発する。

「本当は後ろに乗るのが怖いんでしょ?」

「違います!」

 舞は怒ったような口調でむきになって言い返してきた。 

「じゃあ、どうぞ」

「それでは失礼しますっ」

 本当に素直じゃない。でもそこが面白くて好きなんだけど、ね。

 舞の手から鞄を奪い取って前のカゴに突っ込むと、彼女はおそるおそる自転車の後ろに横座りした。

「ちゃんとつかまっててね」

 後ろで一瞬舞が動揺する気配がする。

 笑い出したくなるのを前を向いて一生懸命こらえていると、舞はキョロキョロした後でなぜか荷台をガシッと掴んだ。

 ――そこじゃないだろ!? 

 振り返って低い声で親切に助言しておく。

「落ちても知らないから」

 そして重くなった自転車を漕ぎ始める。

 勿論、わざと危険な運転をして俺に掴まらせようとすることは忘れない。

 カーブで振り落とされそうになった舞は慌てて俺のシャツを掴んだ。

 ――まぁ、今日はそれで許すけど。

 背中に舞の緊張した指がシャツ越しに触れる感覚をくすぐったく思いながら、図書館までの道のりを急ぐ。

 後ろに人がいるというのは不思議な感覚だ。これが親友の田中だったら、俺はまた別の感覚になるのだろう。

 後ろにいるのが舞だというだけで、胸がドキドキして幸せな気分になれる。

 頭の中は人を好きになる喜びでいっぱいのまま、俺の思惑通りの図書館デートが始まった。
< 155 / 164 >

この作品をシェア

pagetop