HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 向かい合って座るのは先週の定食屋以来だな、と思いながらラーメンを待つ。

「人に勉強を教えるなんて、高橋さんで二人目だよ」

 舞の表情をチラリと窺う。思ったとおり、微妙に硬直した。

「意外と少ないね」

 ――そう来たか……。

 どういう変化球が飛んでくるのかと構えて待つのが、俺にとってはなかなか楽しい時間になっていた。

「高橋さんはやっぱりもともと出来がいいよね。きっと苦手意識が強すぎるんだよ。数学的思考はちゃんと出来てるのにな。それに比べてアイツは……」

 勿論、俺も真っ直ぐ投げ返さない。

 ここで言葉を一旦切ると、眼鏡の奥の大きな目がますます大きく開かれた。 

 ――気になる?

 わざと舞から視線を外して早口で続ける。

「酷いんだよね。考え方が性格と同じでひねくれててさ。教えたくないけど仕方ないよね、妹じゃ……」

「妹……サン?」

「あ、そうそう。俺、妹もいるんだ」

 そう言うと、舞は心底安心したように大きく息を吐いた。

 こういうときの舞は無防備で、本当にかわいい。

 正直に言えば俺はそんなに親切な人間じゃない。他人に勉強を教えるなんて面倒なことは極力したくない。

 だから、舞は本当に特別なんだ。……このありがた味を舞が正確に理解してるとは思えないのが悲しいところだけど。

 すぐに取り繕った舞を見て、俺は腹を決めた。



「あんまりからかって嫌われたくないからな」



 うつむき加減だった舞はパッと顔を上げる。

 その表情を確認してから、俺は自分の記憶の映像を脳内で再生した。 
< 157 / 164 >

この作品をシェア

pagetop