鈴姫
あからさまなため息をついて、秋蛍は香蘭の脇を通って鏡に近づいた。
「起きろ。ハル。いい加減に目を覚まさないと、叩き割るぞ」
どうやら秋蛍は鏡をハルとして連れていこうとしているようだ。
しかし、鏡がハルというヒトガタをとれるのは陽があるうちではなかっただろうか。
香蘭は窓の外に目をやった。
もうすぐ夜があける頃ではあるが、まだまだ暗く、夜そのものだ。
陽など少しも差してはいないのに、どういうつもりなのだろうかと秋蛍を見やると、彼は香蘭の机の上にあった器を手に、鏡の前に立った。
「ねぼすけ、これが見える?」
ひらひらと、鏡の前で器を振って見せている。
まさか、と香蘭が思うと同時に秋蛍は器を振り上げた。
危ない!
と思わず目を瞑った香蘭の耳に、あの可愛らしい少女の声が聞こえてきた。