鈴姫
「敵の力を分散させる狙いでもあるのです。どうかお聞き入れください」
華京は口を閉ざして秋蛍から視線をそらし、床を見つめていた。
その瞳は揺れていて、どうすべきか、ひどく思案しているのがうかがえた。
香蘭は彼女の横顔を見て、胸が痛くなった。
彼女は王女で、彼女にこの国の命運は託されている。
それがどれだけ彼女を苦しめているかわかる。
これが上に立つ者の義務なのかと、香蘭は改めて感じた。
鈴王も、あの父でさえもこのように悩んだことがあるのだろうか。
「秋蛍」
しばらくして、華京はようやく秋蛍に顔を向けた。
秋蛍と香蘭、二人の視線が華京に注がれる。
緊張しながら待っていると、ふいに彼女は表情を崩した。
「わかった。聞き入れよう」
「華京様」
「頑固者めが。絶対に捕まるのではないぞ」
「もちろんです」
香蘭は、二人を遠くから見つめている気分になった。
素直に意見をぶつける家臣。
そして自分の意思を持ちながらも、家臣の言葉を聞き入れる王女。
何より彼らはお互いを信頼しあっている。
香蘭が鈴国ではあり得ないと思っていたことを、二人は簡単にやってのけた。