しあわせおばけ

明日香にとって、このカレーコロッケは、母の味だった。

ハンバーグじゃない。

から揚げでもない。

この味を作れたら、見えない母の存在を信じてもいいとさえ思えるのは…―

ほかの何でもなく、このカレーコロッケだけなんだ。



「ママ、そこにいるの…」

明日香は大きな瞳から涙をポロポロこぼしながら、箸が置かれた空席に手を伸ばした。

「…明日香ぁ」

妻も手を伸ばし、触れられない明日香の手を包む。

ふぇーん、という泣き声が重なった。



妻が死んでから1年、日々成長する明日香の顔は、ますます母親に似てきた。

同じ顔で泣くふたりを見ていると、俺の胸にも熱いものがこみあげてきた。




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