午前0時、夜空の下で
この森に来るのは、牢獄から逃げ延びた日以来初めてだった。
黎明館で働く蝶たちは毎日当番を決め、水を汲むために訪れている。
天界の直轄区と離区の間に、湧き水の湧いている場所があるらしい。
その水には、美容効果を促す成分が多く含まれているそうで、ミスティアたちはもちろん、心も湧き水を飲むようにしていた。
心も当番に加わろうとしたが、命からがら彷徨った森にあまりいい記憶はないだろうと気遣われ、当番から外してもらっている。
久遠の森は、相変わらず不気味なほど茂っていて、右も左も分からない。
しかし心は、無言で足を進めていた。
立ち止まれば殺されるという恐怖が、彼女を突き動かしていた。
またあの日のように、ポツリと雫が落ちる。
数分も経たないうちに、柔らかな雨が降り出した。
それでも心は歩き続ける。
腕や足の傷が、雨によって癒えていくこと――つまり、自分がすでに天界の直轄区に踏み込んでしまっていることにも気づかずに。
息を切らしながら、歩みを止めようとしない心の前に……それは突然現れた。
「娘、そこで何をしている?」