午前0時、夜空の下で
狼の低い声を、ぼんやりと聞き流す。

「あぁ……時間だな。娘、この中を覗いてみろ。水面に月が映っているはずだ」

抗議の声すらも上げることができず、神水に近づくと黙って中を覗き込んだ。

丸い月が、ゆらゆらと水面に揺れている。

青白いその月は、どこか神秘的な美しさを感じさせた。

……今日は満月なのか、と溜息をついた瞬間。

森の奥であるにもかかわらず、強い風が吹き込んだ。

ぐにゃりと水面の月が歪む。

もはや、何が映っているのかまったく分からない。

眉をひそめた心だったが、その後水面に現れた姿に、すべての動きを止めた。



「……こころ、」

逢いたいと切望した人が、そこにいた。
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