午前0時、夜空の下で
「この森で、雨を浴びたようだ。……我が主よ、」

視線を妃月に向け、アッシュは再び言葉を紡ごうとした。

しかし、妃月に鋭く睨まれ黙り込む。

心は未だに、俯いたまま動こうとしない。

アッシュは胸のうちで、先程妃月に問い掛けようとしていたことを反芻した。

――主よ、この娘は本当に人間なのか……?

人間と魔族の違いは臭いでわかる。

心は知らないことだが、彼女が人間だと気づかれない要因はそこにあった。

妃月と毎晩のように寝台をともにしていたために、いつのまにかその香りが染みついてしまったのだろう。

今も、心は妃月の移り香に護られている。

……だが、アッシュは獣だ。

魔界に住む獣たちの中でも、特に嗅覚は鋭い。
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