午前0時、夜空の下で
負けるとわかっていても、こうすることでしか己の窮地を訴えることのできないウィーザー。

その切実な思いは、国民から軍神と崇められ、将軍としてウィーザーと対峙した第四皇子のカミュにも、痛いほどに伝わっていた。

城で指揮を執る第一皇子のレインも同じだろう。

彼のもとには王都だけでなく、各地の暴動に赴いた鎮圧軍からの情報も集まっているはずである。

国を憂える彼にとって、戦いを避けられるならばそれに越したことはない。

しかし、悪戯に貴族を怒らせるなという皇帝の命令は絶対である。

琅国において、議会を組織する貴族の地位は高い。

奴隷を必要とする貴族がいる限り、余程の理由がなければ、奴隷制度という因習を打破することはできないのだ。

「――これより、ウィーザーを制圧する。一人残らず捕縛せよ」

カミュの朗々たる声で、馬上の騎士たちが一斉に動き始めた。



キシナにの魔力によって姿を消した心は、降り注ぐ矢を避けるために岩場に隠れる。

統率された鎮圧軍は、圧倒的な力でウィーザーを襲う。

馬上から煌めく剣は色鮮やかな血飛沫を上げ、地面には矢を受けて倒れる奴隷が重なった。

同志が次々に倒れ伏す中、リーダーと副リーダー背を合わせて向かってくる騎士を薙ぎ倒している。

血に染まった剣が、月明かりを浴びて凄絶に輝いた。

ウィーザーの中でも、二人の力は抜きん出ているのだろう。

――だがそれも、多勢に無勢な状況下では長くは持たない。

終わりは、もう、あっという間だった。
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