教組の花嫁
 
 「今日は小波さんに折り入って、頼みたい事があるの。驚かないで聞いてね」

 「何でしょうか」


 小波は、一瞬身構えた。




 「教祖様に和服を見せて上げないこと。それも、教祖様が見たい時にはいつでもね」




 百合葉が意味深な笑みを浮かべている。



 小波は百合葉の真意を測り兼ねていた。


「どういう意味でしょうか」

 小波が百合葉におどおどと質問をした。


 「教祖様に跡継ぎがない事は、あなた知っているわね」
 「ええ、存じています」


 「率直に言うわね。実は、教祖様の跡継ぎを産んで欲しいの」


 百合葉が、小波に明快に自分の意思を伝えた。



 「えええっ!教祖様の子を私が・・・」



 小波は余りの驚きで絶句してしまった。


 (どうして私なの。私は母親の恨みを晴らす為に、教団に潜入しているのに・・・。その私が、教祖の跡継ぎを産むなんて。信じられない!)


 小波は、運命の悪戯に戸惑った。そして、百合葉の申出に、どう答えたらいいのか、皆目わからなかった。





 
< 112 / 296 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop