教組の花嫁
 
 「今時、割烹着をしている人なんかいまっか」


 ほのかが百合葉に尋ねた。


 「売れっ子女優がそんな物着る訳無いでしょう。だから、いいのよ」



 「それもそうですな」


 ほのかが頷いた。


 「後は演技よ。名演技をお願いね」


 「あて、一世一代の演技をしまっせ」
 

 昨年のジャパン・アカデミー賞で、主演女優賞を獲得したほのかが言った。


 「荷物はそこに置いておいて。後で取りに来るから。じゃ、始めましょうか」


 そう言うと、百合葉はトイレの前辺りに倒れた。
 ほのかが急いで119番に電話をした。



 「はい、こちら119番です。どうされましたか」


 救急隊員が電話に出た。



 「娘が、娘がトイレから出た途端に、突然倒れましてな。脳梗塞かもわかりまへん。ああ、どうしたらええんやろ」
 
 ほのかが、お婆さんの声色で救急隊員に娘の病状を説明した。


 「そのままの状態で動かさないようにして下さい。至急、そちらに行きますので、氏名、住所、年齢を教えて下さい」


 ほのかが百合葉の氏名、年齢と、ホテルの部屋番号を、救急車の隊員に教えた。







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