眠り姫の唇
「ね、いないんだったらさ、俺なんてどう?」
「は?」
背中にドサッと棚の感触を感じ、端まで追い込まれていた事に初めて気付く。
男はそれを見逃さず、長い両腕で棚を掴み、瑠香を捉える柵を作った。
「ね、そうしなよ。俺お得だよ。」
そう言って男は瑠香を覗き込む。
近い。
タバコ臭い息が直接かかって瑠香は顔をしかめた。
例えスーパーの安売りで10円で売っていたとしても遠慮する。
「あの、すいません。そういう話なら私失礼します。」
「そう言わないでさ、これも何かの縁なんだから。」
無理やりここに連れてきておいて縁もへったくれもない。
「離してください。」
瑠香はそういって目の前の男の胸を一生懸命押すが、びくともしない。
「噂どおり、つれないねぇ。」
そう言いながらも男はニッコリして一切引かない。
「噂?」
どうせ上司が適当に生意気な女とか悪口でもたたいているのだろう。
それよりも早くこの男から離れないとすごく嫌な予感がする。