眠り姫の唇
本当に気持ち悪いと思いながら瑠香は一生懸命抜け出そうともがく。
「ね、ほら、軽くで良いから。」
「やめてください!」
「俺と一回したら病み付きになるよ。」
どんな自信なんだ。本当の本当に気持ち悪い。
頭の髪をガシッと掴まれ、無理やり上を向かされる。
9階の男は全員キス魔なのかと瑠香は青ざめた。
「ちょっ、やめて!」
「嫌がってるフリってそそるねぇ♪」
掴まれた頭皮が本当に痛い。
何本か抜けてるかもしれない。
「だ、誰か…っ!!」
岩城さん…!!
「笹田、何してる。」
「! 岩城係長!」
もう少しで無理やりその臭い口に食べられそうになっていた瑠香の耳に、海の底のように黒くて冷たい声が聞こえた。
「お前仕事サボってこんなところで…イイ度胸だな。」
「や、違うんすよ…、ちょっと調べ物を…」
「…早く散れ。」
ひ…っと喉の奥を鳴らし、笹田と呼ばれたナルシスト野郎は扉の向こうに消えていった。
はぁはぁという瑠香の息の音と、静かに近付く岩城の足の音。
急に鮮明に見える資料室に、瑠香はただ岩城を見つめ返していた。
「…。」
「…はぁ。本当にお前何してるんだ。」
「…。」
「どうせノコノコついて行ったんだろう。」