眠り姫の唇


「……。」


岩城さん。



「無防備にもほどがあるぞ。だからあんな馬鹿に隙をつかれるんだ。」




岩城さん。




「…おい、聞いてるのか。」




岩城さんだ。




「瑠香?」




瑠香は堰を切ったように涙を流しながら岩城にしがみついた。

スーツを掴む手が微かに震えている。


「…っ…っっ」


「…。」


そんな瑠香をゆっくり抱きしめながら岩城ははぁとため息をついた。


岩城さんの匂いがする。



それだけで安心出来てしまう自分に、瑠香は困ってしまった。


この人に抱きしめてもらうだけで、こんなに気持ちがふわっと軽くなる。



しばらくそのまま抱きしめてもらっていたが、ふと目の前に広がるシミに瑠香は慌てた。


化粧と涙で岩城のジャケットを少し汚してしまい、瑠香は急いで岩城から離れる。


「す、すいません。スーツが…」


グイッ


「気にするな。」


そういって岩城はまた瑠香に手を伸ばして引き寄せた。



< 110 / 380 >

この作品をシェア

pagetop