眠り姫の唇
それと同時に思い出すのは、岩城の暖かい体温。
力強くて、安心する腕。
岩城の匂い。
瑠香はぎゅっと自分の腕を掴む。
あれだけ自分に忠告したはずなのに。
「ねぇ。」
表玄関から少し離れた外の道の端で立つ瑠香に、一人の男性が話しかけた。
一瞬で瑠香は男性を警戒するが、それでもお構いなしに男性は瑠香に一歩近付く。
「突然ごめんね、君、何階?」
何階?ということは、少なからず会社の内情を知っている人間か。
それでも夕方の事があるので瑠香は黙ったまま警戒を続ける。
猫のように姿勢を丸めて一睨みする瑠香に、男子は困ったように微笑んだ。
「あーー、ごめんな、こんな夜道で話しかけたらそりゃ警戒するよなぁ。」
申し訳なさそうにポリポリ頭を掻く男性が、もう一歩近付く。
「じゃあさ、前川って知ってる?前川律子。7階の。まだ残ってる?」