眠り姫の唇
しまったと思った。
しまった。
聞いてしまった。
嫌な沈黙が車内を包む。
「…。」
「…。」
……聞かなきゃ良かった。
瑠香は膝の上でギュッと手を握り締める。
勝手に聞いといて、勝手に傷ついている自分に、少しびっくりした。
こんな事で、傷つくのか、私は。
「…すまん。」
口を開いたのは岩城だった。
「瑠香の事、誰にも渡したくないと思ってる。
俺のものだって、主張したいと思ってる。
いつでも家に連れて帰りたいし、時々一人で寝るときは、隣に瑠香がいないってだけで変な感じがする。
自分の部屋に他人がいるなんて今まで考えられなかったが、瑠香なら許せる。
いないと、部屋が急にわびしく感じる。
…だが、瑠香の事が好きかと聞かれたら、まだなんて答えて良いか分からない。
…すまん。」
「…。」
瑠香は何故か暖かい気持ちになった。
好きかどうか分からないと言われているのに。
ショックなはずなのに。
それよりも。
なんなんだろう、この生真面目な男は。