眠り姫の唇
ついでにベーっと舌を出して、もうその後は無我夢中で逃げた。
失敗した。
こんなに走る予定ならヒールなんてはいてくるんじゃなかった。
せめて家にある黒のローヒールにすれば問題なかったのかもしれない。
不思議な目で見る管理人さんに言い訳がましく「電車に遅れそうなんです!!」と叫び、そのままダッシュする。
会社からしばらく離れた所で、瑠香はやっとスピードを緩めた。
「ふぅ、」
チラッと今きた道を見る。
どうやら追ってくる様子もない。
…ふ、ふふ、
瑠香はなんだかお腹の底から笑けてきた。