眠り姫の唇
「(どうだー!ざまーみろー!!)」

人通りの少ない暗い夜道で瑠香は小声で歓喜を叫ぶ。


はー、すっきりした!!


ずーっと何か引っかかっていたのだ。

やられっぱなしは癪だ。


まだまだこんなもんでは足りないが、これでチャラにしてやろう。

瑠香はまたふふっと笑う。


今更だが心臓がバクバクしだした。


「はー。緊張した。」


…本当は、ちょっと怖かった。

いや、かなり怖かった。


でも、やった。やってやったのだ。


無性に誰かに誉めて欲しかったが、当たり前だけど誰にも言えない。


まぁ良い、自分でほめてあげようと思った矢先に、足の痛みで眉が自然と歪む。


「いっ…たぁ。」


まぁ、当然の事ながら、ヒールで猛ダッシュした代償がかかとから流れ出していた。


結構酷い。


だんだん歩く気力も無くなってきた。


車道際にまだまだ来そうにないバス停のベンチが目に入ってきたので、ふらふらと腰を下ろす。


今日に限って替えのストッキングも絆創膏も忘れてきた。


瑠香はおもむろにヒールを脱いで両手に持つ。

血の滲んだ足をバタバタ揺らしながらバスの時刻を覗いた。



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