眠り姫の唇




最近岩城は少し大胆だ。


あのチャラ男事件から夜は会社前で拾ってくれるようになり、


朝もちょっとずつ車から降ろされる位置が会社に近付いてきている。



「岩城さんっ、ここで!ここでいいですって!」


「…めんどくさいな。」


そう呟いて隣の男はブレーキを踏む。


ほんとにこの男は。会社の人間に見られるという危機感は無いのだろうか。


別に社内恋愛禁止なんてルールはないが、隠したくなるのは人間のさがというものだ。


瑠香はぷんすかしながら岩城にお礼を言う。


「今日も送って貰ってありがとうゴザイマシタ。」


「地下の駐車場まで着いてきてくれたら降ろす手間が省けるんだが。」


「そんなんしたらバレちゃうでしょうが!」


ムスッとしながら岩城は前に視線を向ける。


…なんなのだ、昨日から。


岩城の機嫌がすこぶる悪い。


なにかするというわけではないのだが、なんだか機嫌が悪い。


キチンと決めた髪を揺らしながら、岩城は発進する。


それを見送りながら瑠香は静かに首を捻った。


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