眠り姫の唇
その香りを脳が認識した途端、瑠香は一気に真っ黒の何かに支配されてしまった。
さっきまで忘れていたイライラと一緒に、それが身体から吹き出す。
瑠香は目の前にあった紺色のネクタイを力いっぱい引っ張り、岩城を無理やりしゃがませた。
さっきから瑠香らしくない行動に、岩城は困惑していたのもあって簡単にその長身は傾く。
「岩城さん。」
「…。」
じとっとYシャツを見つめながら、瑠香が岩城の名前を呼ぶ。
「女物の香水の匂いがします。」
「あ゙?……ふぐっ」
瑠香は、何か言いかけた岩城の口を乱暴に塞いだ。
ネクタイをギュッと引っ張りながら、噛みつくように唇を奪う。
怒りをぶつけるように。
いつもの仕返しのように。
「…っっ」
岩城は反射的に瑠香の後頭部に手を回し、口付けは更に深くなる。
責め合うように舌を絡ませ、瑠香は唇を離す瞬間に、軽く岩城の下唇に歯を立てた。
「…っ!」
岩城は唾液で光る口元に手をやる。血は出ていないが、少しは痛かったのであろう。