眠り姫の唇
これはいつもの仕返しだ。
瑠香は楽しくて仕方がなかったが、どうにか声を抑えて静かに岩城の背中に話しかける。
「私が、唯が女の子って言わなかったのも、悪かったですね。すみません。でも、さすがに友達でも男の人を自分の部屋に泊めるなんて、しないですよ?」
「…。」
「冷静な岩城さんがあーんなに取り乱すなんて、私、ちょっと嬉しいです。」
「…っ!」
その言葉に、岩城は思わず振り返りそうになるが、どうしても顔を見られたくないのか、やっぱりこっちを向いてくれない。
クスクス笑いがどうしても我慢出来なくなって、瑠香はポンッと見た目より柔らかい岩城の髪を触り、席を立った。
「カレー作ってきますね。」
ブククク…
ジャガイモの皮を剥く手が震える。
あんなに照れている岩城を見るのは初めてだ。
可愛い。
可愛い過ぎる。
三十路男を捕まえて可愛いも何もないと思ったが、でもやっぱり可愛いとしか思えないから仕方ない。