眠り姫の唇

「……。」


「お風呂行ってきます…!」



逃げるように言い捨て、瑠香はスルリと岩城の腕を抜け出した。


扉を出来る限り素早く、そして冷静に閉めながら、ズルッとその場にしゃがみ込む。



…さっきの、聞こえていただろうか。


静かな脱衣所で冷たいドアノブを握っていると、途端に熱が冷やされる。


素直に恥ずかしくなってきた。


あんなセリフ、男なら100%の確率で『あれは仕事だろ。』と言い返されてもおかしくない。


そう言われると、もう何も言えなくなってしまう。


岩城には聞こえていないといい。


頭を冷やすように長めにシャワーを浴びた後、洗面台で丁寧に歯を磨く。


鏡に映った自分の頬がまだほんのり赤い。


…少しは酔いもさめていると思うのだけれど。


シャカシャカブラシを動かしながら、瑠香はぼんやり考えた。


あれで、実は心配してくれていたのではないか。


玄関での怖い顔を思い出す。


扉の前についてからやっと気がついたのが、着信が何件か入っていた。




…やっぱり部屋に戻ったら、ちゃんと謝ろう。





< 276 / 380 >

この作品をシェア

pagetop