眠り姫の唇
「……。」
「お風呂行ってきます…!」
逃げるように言い捨て、瑠香はスルリと岩城の腕を抜け出した。
扉を出来る限り素早く、そして冷静に閉めながら、ズルッとその場にしゃがみ込む。
…さっきの、聞こえていただろうか。
静かな脱衣所で冷たいドアノブを握っていると、途端に熱が冷やされる。
素直に恥ずかしくなってきた。
あんなセリフ、男なら100%の確率で『あれは仕事だろ。』と言い返されてもおかしくない。
そう言われると、もう何も言えなくなってしまう。
岩城には聞こえていないといい。
頭を冷やすように長めにシャワーを浴びた後、洗面台で丁寧に歯を磨く。
鏡に映った自分の頬がまだほんのり赤い。
…少しは酔いもさめていると思うのだけれど。
シャカシャカブラシを動かしながら、瑠香はぼんやり考えた。
あれで、実は心配してくれていたのではないか。
玄関での怖い顔を思い出す。
扉の前についてからやっと気がついたのが、着信が何件か入っていた。
…やっぱり部屋に戻ったら、ちゃんと謝ろう。