眠り姫の唇

そんな常識など聞いたことないが、桜子の中で“浮気相手が身を引くもの”という定理が存在するらしい。


ああ、だからどうにかこっちを浮気相手という設定にしたかったのか。


案外この人、天然なのかもしれないと思いながら瑠香は続けた。


「一年前から付き合ってる、って先ほど言ってましたけど、どちらから言い出したんですか?」


「え?えーっと、岩城さんからよ。私が入社した時から、ずっと好きだったんですって。」


少し焦りながらも、桜子は妄想に更けるように語る。


「私も私でずっと岩城さんだけ見て来て、岩城さんの右腕になれるように仕事も頑張って、ずっと岩城さんの隣に立っても恥ずかしくないように素敵な女性を目指してきたつもりよ?…なのに、これって鳶に油揚げっていうのかしらね。順調に付き合って、結婚の話まで出てたのに、あなたみたいな娘が出てくるなんて…。」


「結婚…?!」


突拍子もない話に瑠香は驚愕する。


瑠香はほぼ妄想だろうと思って聞いていたので、そのぶっ飛んだ内容に、少し恐怖すら覚えた。


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