眠り姫の唇
だいたい、その時期岩城は前川に思いを寄せていたのだ。
桜子の入る隙などない。
でも、桜子が岩城の為に色々頑張って来たのは本当なのかもしれないと、瑠香は思った。
岩城に憧れるその瞳は、本物のような気がしたからだ。
「ね、だから、どうか身を引いて。お願い。」
「いや、無理ですって。」
ほとんど祈願に近い桜子の上目使いに瑠香は一歩後づさる。
「じゃあ今日佐倉さんが言った全部、岩城さんに話してもいいですか?」
「それはダメ!!…あ、実は重い女だったって思われたくないから、言わないで。だから、そのまま静かに何も言わずに別れて。お願い。」
「……。」
「…。」
すがりつくような瞳を瑠香はじっと見つめながら、軽くため息をついた。
茶番は終わりだ。
そろそろ帰りたい。
「…いい加減、偽りなしで話をしませんか?もう色々面倒臭いです。あなたが岩城さんと付き合ってるっていうのは全く信じられません。そもそもあなたの言い分は支離滅裂で、おかしな点が山のようにあります。」
ずんっと腕を組ながら、瑠香は堰をきったようにまくし立てた。