眠り姫の唇


「……もう、私結婚止める…!」



え?


その少し大きな声に、瑠香の動きがピタリと止まった。


いま、なんて?



反射的にもう一度扉の隙間から覗き込むと、


前川は興奮した様子でなにやら岩城にまくし立て、岩城は岩城でぐっと前川の手首を掴み、切なそうな顔をしたと思ったら、



その細い手首を引き寄せ、



前川をその胸に抱き締めていた。



「(………………。)」




その力強い腕に。



前川のなびく長い髪に。



切なく寄せられた眉に。



…負けたと思った。





瑠香はそのままヨロヨロと扉の隣の壁に背中を付ける。


そして天井を見上げた。


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