気がつけば愛でした
静奈達の姿を見て立ち上がる。
「律。営業課から何か聞き出せたか?」
「いいえ。営業側もある程度話が進められてから下りてきたことのようで困惑しているといった感じでした。」
「そうか。ったくよぉ」
社長は疲れたように呟いた。最終判断は持ち越されたがKグループが離れた時の損失は大きい。
「とりあえず俺は社に戻るわ。二人はもう上がっていいぞ。」
「え!?しかし…」
「この件は明日にでも重役会議を開く。俺は今日中にやらなきゃならない仕事を片付けるだけだから。」
秘書である静奈にそう説明する。確かに社長の仕事は残っていた。
社長はお疲れ、と手を上げて車で社に戻って行った。
「ハァ。ったく…」
社長を見送った後、隣の高柳がそう呟いた。
その声が社長に似ており、思わず振り返る。
「ん?」
「あ…いえ…」
母親が違うとはいえ、兄弟なのだなと改めて感じた。フッとした時の声は似ているものなのだ。
「これから大変になるな」
「そうですね…」
忙しくなるかもしれない
静奈がそんなことを思っていると、高柳がソファから鞄を持ち上げ振り返った。
「橘、これから予定は?」
「え?」
「この前メールしたろ?暇なら飯でも奢るけど?」
恥ずかしそうにする訳でもなく、いたって普通に食事に誘ってくる。
しかもお礼のクセにちょっと偉そう。
この前のメールには『いつでも大丈夫です。』と返事をしていた。
本当は別にお礼なんていらないのに。
でも誘ってくれた事が静奈には嬉しかった。
『嬉しそう』
上村の言葉が蘇る。
やはりもう気がつかないふりは出来ないのかな。“苦手な人”からの印象の変化…気持ちの変化を。
そんな事を考えながら、高柳を見上げ、頷こうとしたときだった――……