時を駆けた夏 ~また、君に恋をする~
私は、もう高校にもなって、“恋”というものを一度も経験したことがなかった。
『人を好きになる』って、どんな感じなんだろう…。
「――夏? ノート、写し終わったの?」
上から降ってきた葉月の声で、自分の世界から現実に引き戻された。
「あ、うん。ありがと」
慌てて顔を上げて、葉月のノートを手渡す。
葉月は不思議そうな顔をしていたが、すぐに笑顔で「いいよ」と言ってノートを受け取った。