ワケあり!
 放課後――別にデートに誘ったつもりはない。

 天文部とやらに、案内してもらおうと思ったのだ。

 帰り支度を整えた絹は、将が動き出すのを待った。

 教室の幾人かが、二人で連れ立って歩き出すのを見ている。

 それは、ただの遅れて入学した新入生と、将のツーショット、という意味合いではない。

 噂の美少女新入生と連れ立って歩いている、将という構図だった。

 彼女の存在こそが、視線のメインディッシュだ。

 ああ。

 つまんない。

 絹は、この飾り物の顔が、その真価をいかんなく発揮している事実に、あくびが出そうだった。

 何で、顔だけで世間の反応は違うのだろう。

 絹の中身は、こんなにもドス黒いというのに。

 見た目が綺麗なら、中身はオガクズだって構わないのだろうか。

 その上、上品に振舞わなければらないのが、肩がこってしょうがない。

 いっそ、自分の中身がオガクズならば、肩もこらないのに――そんなバカなことを考えているうちに、天文部と書いてある部屋にたどりついた。

 金持ち高校らしく、部室はすべて部室棟と呼ばれる建物に、教室のようにずらっと並んでいる。

 隣は、音楽関係の部活なのか、ピアノの音が流れていた。

「ちわー」

 おぼっちゃまにしては、フランクな挨拶で、将は部室のドアを開ける。

 既に、何人か人が来ていた。

 しかも。

 あん?

 絹は、違和感を感じた。

 制服の違う、華奢な子たちもそこにいたのだ。

 あの制服は。

 確か。

 中等部――そう、絹が理解しようとした時だった。


「ママ!」


 中等部の制服の一人が、がたっと立ち上がるや、大声で叫んだのだ。

 その視線が、まっすぐに自分に向いているのを知って、絹は動きを止めた。

 はて。

 こんなでかい子供を、生んだ覚えはなかった。
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