ワケあり!
 二日目の朝。

 ゆっくりゆっくり、歩いて登校したため、予鈴の少し前の到着になる。

 途中何度か、クラスメートの車が止まり、乗るように誘われたが、「風景を見たいので」と、優雅にお断りした。

「おはようございます」

 絹は、にこやかな笑顔を浮かべ、隣の将に挨拶をした。

 写真でも見たし、昨日も見た。

 しかし、昨日はそこまでじろじろ眺め回すわけにも行かず、通り一遍、全体の把握をしただけだった。

 今日は挨拶とともに、じっと彼を見てみる。

 予鈴までの、ささやかな観察だ。

 男にはもったいない、柔らかそうな黒髪は短く。

 お坊ちゃまにしては、色白でもない。

 大き目の目と、きりっとした眉。

 狩猟犬を思わせる、しなやかな身体は、バランスがいい。

 白皙の美少年ではないが、健康的な色男だ。

 こういうのが、好みなんだ。

 ゲイの好みなど、絹が知るはずがない。

 しかし、将が一番父親に似ているというのならば、これがボスのストライクゾーンということになる。

「ん、何か?」

 あまりじっと見すぎたのだろう。

 将は、怪訝を返してきた。

 それに、にこっと微笑んで返す。

 あ、赤くなった。

 おまけに、純情路線か。

 絹は、てのひらの上で、彼を転がしている気分になった。

 簡単すぎて、物足りないほどだ。

「今日の放課後、お時間あります?」

 そう。

 最初からこれを言い出すきっかけを探していたのだ――というフリで、彼女は穏やかに語りかけた。

「えっ!?」

 驚いたような将の声に、予鈴の音がかぶる。

 すぐに、担任が入ってくるだろう。

「また、後で…」

 思わせぶりに微笑んで、絹は彼から視線を外した。

 しかし、続きが気になるのだろう。

 ホームルームが終わるまで、将はちらちらと彼女を見続けていたのだった。
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