ワケあり!
「実は、誕生日と名前には関係があるのだよ」

 家に帰り着くと、ボスがいきなり玄関先で講義を始めた。

 目がキラキラと輝いている。

「た、ただいま帰りました」

 絹は、笑顔を浮かべそこねながら、とりあえず玄関を上がった。

「3月末日の了くんは、絹も気づいただろうが…あとの二人には気づいておるまい」

 ふっふっふ。

 てくてく、居間に向かうさなか、そんなことで勝ち誇られても困る。

「まず、将くん。彼は、11月生まれ…ここに着目だ」

 テストに出る重点項目を教えているようなボスの声を横目に、絹はソファにかばんを置く。

「11月の別名は?」

 はい、絹くん――と、指を差される。

「し、霜月です」

 思いつくものを答えた。

「ブッブー…11月の別名は、サムライの月です」

 腕組みをして、ダメな生徒を見る目で見ないでください。

 絹は、苦笑した。

 しかも、その答えはマッドサイエンティストというよりは、おばあちゃんの知恵袋だ。

「11月を漢字で書くと、武士の『士』に似ているから、サムライの月、というわけで…将くんという名前になりました」

 えっへん。

 ボスの勝ち誇ったままの解説に、絹は将のセリフを思い出していた。

『うちの親、名づけのセンス悪いんだよ。』

 まあ、将はマシな方か。

「そして京くん…7月17日は何の日だね」

「知りません」

 絹は、即答した。

 少なくとも、世間一般に知られている名称は、その日にはなかったはずだ。

 ハッ。

 ボスは、お手上げという風に、両手を軽く持ち上げて見せる。

「7月17日は…京都の祇園祭のメインイベントデーなのだ!」

 どうだ、すごいだろう。

 ボスの全身から、私だけが知っている知識というオーラが、ばんばんに放出されていた。

 やっぱり、将が一番マシな名前のつけられ方だな。

 ボスのオーラを、さりげなくスルーしながら、そう納得した。

 京都、か。

 織田の本拠地は、関西だったはず。

 ということは、京の名前を決めたのは――桜かもしれない。

 絹は、ふとそう思った。
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