ワケあり!
「彼は、私を玩具だと思っているんですね」

 雨にけぶる図書室の窓。

 ここに絹を連れてきたのは、森村だ。

 授業をサボることになった、二人の密会場所。

「会ったことは一度しかないけど…兄さんは元気かな?」

 眼鏡を一度取り、ハンカチで綺麗に拭う。

 声には、勿論愛情などはない。

 儀礼的なものだ。

「ええ…少し風変わりですけど」

 ただ元気と言うには、はばかられる空気。

 森村がまとう、負のオーラを感じるせいか。

「そう…で、僕に何の用?」

 拭き上げた眼鏡をかけながら、森村が聞いてくる。

「渡部さんのことを、教えてもらおうと思いまして」

 あなたは、渡部の敵ですか?――単刀直入には、聞けない。

 外側から埋めて、森村という男を探らなければ。

「調べなくても大丈夫…渡部は君にすぐ飽きる…玩具にされるのは、いまだけだよ」

 これまで、ずっと彼がそうだったのだと、森村は示唆する。

 逆に言えば、それほど長い付き合いなのだ。

「何故、渡部と付き合ってるんですか? あなたは、とても彼を好きには見えないのに」

 絹は、一歩踏み込んだ。

 森村の外皮は固い。

 外堀を埋めようとして追い返されるなら、中に飛び込むしか策がなかった。

「同じ学年にいたのが、運のツキ…」

 ぼそり。

 森村の表情が、完全な無表情に沈んだ――次の瞬間。

「僕が、渡部にくっついているんだよ…」

 唇の端だけが、ゆっくりと上がる。

 部屋の湿度を、全て凍り付かせるほどの冷気の粒。

 絹は気圧され、ぶるっと震えた。

「あれは…僕の獲物だ。放っておいてくれ」

 そこには。

 狂気と憎しみしかなかった。
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