ワケあり!
「絹さん?」

 将に呼びかけられ、はっとする。

 我知らず、ぼーっとしていたようだ。

「なあに?」

 それをなかったことにするために、笑顔で聞き返す。

 ぼんやりなど、していなかったのだと。

 あの森村という男の憎しみが、記憶になって絹の足に絡み付いていた。

 あれは、きっと――殺意というのだ。

 彼は、いつか渡部を、抹消しようと思っている。

 その機会を、傍でずっとずっと狙う気なのだ。

 一体、どんな出来事が、森村に憎しみを与えたのか。

 恐ろしくて、想像したくもなかった。

 首筋を軽く震わせて、べっとりと張りつく記憶を跳ね飛ばす。

 そんな悪寒を払拭する、将の存在。

 彼の瞳の強さは、太陽の下にいるのと同じパワーを感じるのだ。

「あ、いや…そういや絹さんの誕生日、7月なんだってね」

 了に聞いたのだろう。

 しかし、普通は自分が誕生日を聞かれた時に、聞き返しそうなものだ。

 その辺が、将らしいと言うべきなのだろうが。

「アニキも7月だから、一緒に何かやろっか…アニキを一人で祝おうとすると、なぜか嫌がるから」

 最後の方、将がにやっとしたので、絹もつられてしまった。

 なるほど、と。

 高校にもなって家族に誕生日を祝われるのは、かっこ悪いとでも思っているのだろう。

「素敵ね…」

 3人の中の、誰にも抜け駆けをさせないという意味では、兄弟と一緒に祝うのがいいのかもしれない。

 ボスも喜ぶだろう。
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