ワケあり!
「はっはっは! でかした!」

 家に帰り着いたら――ボスが赤飯を炊いていた。

 まじですか。

 絹は、予想を超えたその事実に、笑っていいのか困っていいのか分からない。

 しかし、ボスは満足しているようだ。

 何よりである。

「すぐ握ります」

 本当なら、マッドサイエンティストの助手のくせに、いまの島村は三角巾とエプロンで、赤飯のおにぎりを作っている。

 この家で、家事ができるのは、島村と絹。

 彼がどこで家事の腕を磨いたかは知らないが、絹は必要にかられて仕方なく、だ。

 あの施設では、何でも自分たちでやらなければならなかった。

「いやあ、あの了くんはたまらないね。はぁ…いじめてみたい」

 思い出すだけで身をくねらせるボスの感想に、絹は笑ってしまいそうになった。

 なるほど、と。

 あの感覚は、女だろうとゲイだろうと、共通して覚えるものなのか、と。

 だが、それを口に出して、ボスと分かちあうつもりはない。

 自分は、悪魔との契約を履行するだけだ。

 たとえ自分の感情と一致するところがあっても、それは単なる副産物。

 ボスの指示の範囲内での、個人的な楽しみである。

「ああ、天文部…懐かしい」

「できました」

 一人トリップするボスに、赤飯おにぎりの盛られた皿が差し出される。

 それをむんずっと掴んで、ボスは宙を見上げるのだ。

「そう…天文部の観測会…チョウと二人きり、丘の上で美しい星を見上げたのだよ」

「……」

 ボスの話をよそに、島村は次に皿を絹へと突き出した。

 受け取る。

 炊きたてなのか、まだ温かい。

「で、ボス…」

 もしゃっと、赤いおにぎりにかぶりつきながら、トリップ中のボスに話かける。

 まだ、目は戻ってきていないが、耳は聞こえているだろう。

「この顔のモデルになった人のことを、前知識として欲しいんですが」

 サプライズのせいで、何にも情報がないのだ。

 しかし。

 ボスは、むっと顔をゆがめて――言った。


「イヤだ」
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