ワケあり!
 了が、ひとつ上の階を見ている間に、絹はお手洗いへと向かった。

 鏡の前で手を洗いながら、髪型のチェックをする。

 プレゼントも決まったし、一安心。

 京が、皮肉のこもったそれの、本当の意味に気づくことは、もしかしたら一生ないかもしれない。

 しかし、確かに絹はあのCDに、自分という人間を込めたのだ。

 水を止め、バッグからハンカチを出す。

 絹の後ろを、二人の女性が通りすぎ――ない。

 鏡ごしに、目が合った。

 あっ。

 知らない人間だった。

 しかし、絹よりももっと年上の、大人の女二人が、彼女に手を伸ばしてくるではないか。

 その手に握られる、白いもの。

 全て、鏡ごしの出来事。

 とっさに、右に一歩。

 濡れたままの手で、右の女性の伸ばされた腕を脇に挟むように掴む。

 腕ごと身体を振り回して、もう一人の女の方に放り投げる。

「きゃあっ!」

[いたぁい」

 遠心力で吹っ飛ぶ身体にぶつかられ、二人まとめてトイレの床にすっ転ばせることになった。

 本格的に、武道をやっている人間ではない。

 倒れたはずみに落とした白いものは、ハンカチだった。

 それを拾い上げ、ちょっと匂いをかいだだけで絹は顔を顰めて離した。

 覚えのある匂いだ。

 訓練でも出てきた、クロロホルム様だ。

 なるほど。

 腕に覚えがなくても、この布きれを押し付けさえすれば、なんとかなると思ったのだろう。

 あちこち押さえながら、立ち上がるお姉さまたち。

 絹は、ピラリとそのハンカチを二人に閃かせた。

「ごめんあそばせ…護身術を習ってますの」

 不適に微笑んで威嚇する。

 おそらく、あの五人組の誰かの差し金だろう。

 どういう見張り方をしていたかは知らないが、こんなところにまでお迎えがくるなんて、穏やかじゃない。

 しかし、その行動の雑なこと。

 さすがはお嬢様が、自分で考えるやり方だ。

 かわいらしすぎる。

「ご主人にお伝えいただけるかしら? 今度こんな真似なさったら、学校で護身術を披露しますわよって」

 絹は――ハンカチを引き裂いた。
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