ワケあり!
 クロロホルムで絹を拉致して――そのまま美容整形。

 うっかり彼女が下手をうっていたら、そうなっていたのだ。

 やり方が雑だったとは言え、本気で行動を起こす執念だけは恐ろしい。

 女二人が走り去った後――綺麗に手を洗い直して、絹はやっとお手洗いを出た。

 いつの間にか置かれていた「清掃中」の黄色い看板。

 変なところで、芸が細かい。

「すごいねー絹ちゃん、撃退したんだ」

 看板の横を、一歩通り過ぎようとした彼女は、その瞬間、凍り付いた。

 聞き覚えは、もちろんある。

 その呼び方も。

「あなたの差し金には、思えませんでしたけど」

 横目で、ちらり。

 出てすぐの壁に、もたれている――渡部を見る。

「うん、違うよ…助けて絹ちゃんに恩を売ろうかなーと、ここで待ってたんだ」

 にこにこ。

 いけしゃあしゃあと、勝手な理屈を言う。

 元凶そのものに助けられたとしても、絹が恩なんか覚えるはずがなかった。

「テニスが忙しいでしょうから、お構いなく」

 なぜ、ここにいるかは分からないが、休みの日まで会いたくはなかった。

 もう、関わらないと決めた矢先なのに。

「部長、こんなところに…って、高坂さん」

 フロアの方からやってくる女性が、彼女を呼ぶ。

 はっと、顔を向ける。

「委員長、なんでここに…」

 絹の疑問に、渡部が先に笑いだした。

 なんなのだ、一体。

「ここ、うちの系列の店なの」

 知らない絹に、苦笑がちな声。

 あーもう。

 金持ち学校なのだから、親がデパートの一つや二つ持っててもおかしくない。

「いきなり部長、いなくなったと思ったら、高坂さん追い掛けていったんですね…もう」

「ごめん、ごめん、あーちゃん。さ、続きの買い物に戻ろうか」

 絹に、ウィンク一つ残して、性悪渡部は去っていった。

 委員長…その人と一緒にいるのはやめた方が。

 絹の願いは、声には出来なかった。
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