ワケあり!
 目が覚め――絹は、頭を抱えた。

 頭がガンガンする。

 いや、それは別にいい。

 そのために、頭を抱えているわけではないのだから。

 本当の理由は。

「おはよう」

 にっこり。

 隣に、このにっこり腹黒王子がいることだ。

 やられた。

 絹は転がったまま、ホールドアップのゼスチャーをしてみせた。

 さすが、悪党の本場の人間は、拉致の仕方もスタイリッシュで完璧だ。

 昨日――多分、昨日。

 三兄弟が先に帰り、珍しく絹は一人で歩いて帰っていた。

 そして。

 華麗に拉致されたのだ。

 見知らぬおっさん一人に、してやられた。

 その飼い主が、渡部というわけか。

 しかし、暑い。

 見れば、絹は制服から浴衣に着替えさせられていた。

 それでも、酷いほどの暑さだ。

 セミも少し自重してくれ、と頭痛に響くほどうるさい。

 よく反響するのだ、この古めかしい日本家屋には。

 絹は、自分を取り巻く環境を、ひとつずつ確認していった。

「今日、何日?」

 うちわを優雅に持つ渡部に、ストレートに聞く。

「16日だよ」

 やはり、翌日か。

 では。

「ここは…どこ?」

 一息ついて――聞いた。

 王子が、にっこり笑う。

 ラケットを振るように、うちわを一度振り回した。

「暑いでしょー、京都は」

 満面の笑顔。

 あぁ。

 ぶっとばしたい。
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