ワケあり!
 絹は、無宗教だ。

 あえていうなら、ボス教。

 だから、神社に連れてこられても、ありがたみなんかなかった。

 参拝より、もっと聞きたいことはたくさんある。

 しかし、彼は境内に入ると口を閉ざしてしまったのだ。

「八坂さんの中で、生臭い話はしないよ」

 日傘をたたむよう言われる。

 絹は、ふぅと息を吐きながら、言われた通りにした。

 神様を、信じるタイプには見えないのに。

「何をお願いするの? テニス?」

 彼は、貴重な練習時間を割いて、京都入りしているのだ。

「テニスで神頼みを、したことはないな」

 ふふん、と鼻で笑う。

 全国制覇とかは、狙っていないのか。

「もう一つは、神頼みがいりそうでね…かなり、アクロバットだから」

 目を細めながら、渡部は絹に五円玉を差し出した。

 お賽銭、と言う意味か。

「アクロバット…綱渡りでもする気?」

 受け取るが、また何かキナ臭そうな話に、絹は表情を曇らせる。

「神様とオレだけの、ヒミツさ」

 無駄に目をキラキラさせたので、絹は受け取った五円玉を、その顔目がけて投げ付けたい衝動を覚えた。

 わざとらしい顔だ。

 そんな、彼女の不快感に気付いたのだろう。

「大丈夫…そのアクロバットをする時、絹ちゃんやおじさんは…」

 神様の目の前。

 ほほ笑みながら、彼はお賽銭を投げた。

「…必ず巻き込むつもりだから、楽しみにしておいて」

 唖然としている絹を置き去りに、渡部はすみやかに神頼みを始める。

 妙に儀礼ばってるその動作のせいで、絹に頭を抱える時間まで与えてくれた。

 一体、何に巻き込む気!?

 五円玉を、手の中でぎゅっと握り締める。

 そんなご縁は――いらない。
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